AlGaInP系可視光半導体レーザの研究開発(1991年~1994年)
1.はじめに
1991年から1994年まで株式会社富士通研究所において680 nm帯AlGaInP系赤色半導体レーザの研究開発に従事した.この赤色半導体レーザは実用化され,1999年に富士通株式会社の光磁気ディスクドライブ[1,2]に搭載された.ここでは,半導体レーザの重要な開発課題である信頼性の向上を目指した研究を紹介する.
2.半導体レーザの劣化評価方法の提案[3]
半導体レーザの劣化は,主に半導体結晶の劣化(バルク劣化)と光を出力する端面の劣化(端面劣化)に分けられる.しかしながら,当時は,これらの劣化がレーザの発振特性に与える影響を定量的に評価する方法がなかった.そこで,図1に示すように劣化した半導体レーザを縦方向に3つに分割して,それぞれのレーザの発振特性を評価することで,バルク劣化と端面劣化を定量的に評価する方法を提案した.図2は,レーザ端面にそれぞれAR(Anti-Reflection)コーティングとHR
(High-Reflection)コーティングを施したAlGaInP系赤色半導体レーザに対して,本方法を適用した例を示している.青色の点線は試験レーザ(劣化素子)の電流-光出力特性を示しており,赤色の実線はその隣に作製した比較用レーザ(未通電素子)の電流-光出力特性を示している.ARコート端面を含むレーザAでは,しきい値電流の上昇と微分効率の低下が見られるが,コート端面を含まないレーザBとHRコート端面を含むレーザCでは,劣化が抑えられている.このことから,ARコート端面における劣化が支配的であることを明らかにした.
図1 半導体レーザの劣化評価方法.
図2 電流-光出力特性の測定結果.
3.端面光学損傷による突然劣化に対する検討[4]
半導体レーザのAPC(Auto Power Control)通電試験において観測される劣化モードには,突然発振停止に至る突然劣化や駆動電流が緩やかに増加する緩慢劣化がある.高出力動作では,出力端面の光学損傷による突然劣化が問題になる.
本研究では,このような突然劣化に対する寿命を推定する方法を提案するとともに劣化の原因について調査を行った.図3は,端面コーティングを行ったAlGaInP系赤色半導体レーザに対して,駆動時間と光学損傷レベル(端面破壊を起こす光出力パワ)の関係を測定した結果を示す.光学損傷レベルは,駆動時間に対して,ほぼ対数関数で変化することがわかる.また,光出力パワが高くなる程,光学損傷レベルの低下速度が加速する.光学損傷レベルが動作パワまで低下する時間を見積もることにより,突然劣化が起きる時間が推定できる.
図4は,劣化したレーザの端面を光学顕微鏡で観察した写真であり,発光部に腐食が生じていることがわかる.μ-AES(micro-auger electron
spectroscopy)を用いて深さ方向分析を行うことにより,コーティング膜とレーザ結晶の界面で材料の相互拡散が生じていることが示された.
図3 駆動時間と光学損傷レベルの関係.
図4 光学顕微鏡で観察した劣化端面.
4.端面コーティング膜の検討[5]
端面劣化は,コーティング膜に依存すると考えられる.そこで,成膜方法と材料が異なる3種類の膜で端面コーティングを施したAlGaInP系赤色半導体レーザに対してAPC通電試験を行い,緩慢劣化の速さを評価した.図5は,イオンアシスト蒸着で形成したSiO2膜,電子ビーム蒸着で形成したAl2O3膜,ECRデポジッションで形成したSiN膜で端面をコーティングしたレーザに対して劣化の速度(駆動電流が増加する速さ)を評価した結果を示す.予想どおり劣化の速さはコート膜に依存しており,今回調べた3種類の膜の中では,SiN膜が最も劣化が遅いことを示した.
図5 端面コーティング膜による劣化速度の違い.
半導体レーザの特性と端面コーティング膜の改善により,当時,実用化に必要とされていた温度50℃,光出力35 mWのAPC通電試験における2000時間以上の安定動作を達成した[6].
5.謝辞(所属と役職は1995年当時のものである)
赤色半導体レーザの研究の機会をいただくとともに,暖かいご指導とご支援をいただいた株式会社富士通研究所,元常務三杉隆彦博士,石川元常務,桜井照夫部門長,山腰茂伸部長,棚橋俊之主任研究員に深く感謝致します.また,本研究を進めるに当り,ご協力をいただいた株式会社富士通研究所,古谷章氏,鬼頭泰浩氏,菅野真実氏,須藤久男氏,近藤真人氏,穴山親志氏,堂免恵氏に心から感謝致します.
6.参考文献
[1] 電波新聞 平成11年7月16日 富士通 平均シークタイム23ミリ秒,データ転送速度4.9MB/秒を実現 3.5型MOドライブを2機種).
[2] 富士通株式会社プレスリリース 640MB容量光磁気ディスク装置 クラス最高速転送・最速シークを実現した3.5型光磁気ディスク装置を新発売
https://pr.fujitsu.com/jp/news/1999/Jul/15.html
[3] 福嶋丈浩,古谷章,鬼頭泰浩,須藤久男,菅野真実,棚橋俊之,半導体レーザにおける端面およびバルク劣化の評価法,電子情報通信学会論文誌,
vol. J78-C-I,no. 2,pp. 73-79,1995.
[4]福嶋丈浩,古谷章,鬼頭泰浩,須藤久男,菅野真実,棚橋俊之,AlGaInP系可視光半導体レーザの高出力動作における光学損傷,電子情報通信学会論文誌,
vol. J78-C-I,no. 3,pp. 143-149,1995.
[5] T. Fukushima, A. Furuya, Y. Kito, M. Sugano, H. Sudo, and T. Tanahashi,
Facet degradation of AlGaInP visible semiconductor lasers with facet passivation,
Jpn. J. Appl. Phys., vol. 33, Part 2, no. 7B, pp. L1007-L1009, 1994.
[6] 福嶋丈浩,680 nm帯AlGaInP系可視光半導体レーザの信頼性に関する研究,博士学位論文,大阪府立大学,1995.